はじめに:50代HSPベテランSEが直面する現実と、この連載で伝えたいこと

50代を迎え、ふと立ち止まって自分のキャリアを考えたとき、漠然とした不安を感じることはありませんか?
「このままでいいのだろうか?」「体力的な衰えを感じる」「新しい技術についていけるだろうか」──そんな心の声が聞こえてくるかもしれません。
特にHSP気質で、かつてうつ病を経験した私のようなベテランSEにとって、「うつ病再発」への恐れは常に心の中に潜んでいる不安要素ではないでしょうか。
この連載では、私自身の実体験と、長年のSE経験、そしてうつ病を乗り越える中で培ってきた知見を基に、50代HSPベテランSEがうつ病の再発を防ぎ、心と体を健やかに保ちながら、充実したSE人生を歩み続けるための具体的な習慣をご紹介します。
HSP気質を単なる弱点ではなく、強みとして活かし、年齢を重ねてもなお、SEとして輝き続けるためのヒントが満載です。
さあ、一緒に、あなたらしいSE人生をこれからも力強く歩んでいくための道筋を探していきましょう。
※本記事は筆者の個人的な経験と学習に基づくものであり、医学的診断や治療を目的としたものではありません。健康上の問題でお悩みの方は、必ず専門の医療機関にご相談ください。
1. 50代HSPベテランSEが直面する現実と課題

最近、仕事に対する情熱が薄れ、『つまらない』と感じることはありませんか? かつては夢中になれたはずのプログラムも、ふと気づけば、ただの作業になっていませんか?
50代を迎え、長年のシステムエンジニアとしてのキャリアを積んできたHSP(Highly Sensitive Person)気質のあなたは、もしかしたら今、人生の大きな転換期に立っているのかもしれません。
年齢を重ねるにつれて感じる身体の変化、常に求められる新しい技術へのキャッチアップ、そしてHSP気質ゆえの繊細さが、知らず知らずのうちにあなたを蝕んでいるかもしれません。
かつては夢中になれたはずの仕事も、ふと気づけば『つまらない』と感じたり、些細なことでイライラしたり…。
『このまま働き続けても大丈夫だろうか?』『せっかく乗り越えたうつ病が、また再発してしまうのではないか?』
そんな心の声が、あなたの内に響いているのではないでしょうか。
私自身、うつ病を寛解し、完全回復したHSP気質のシステムエンジニアです。
そして、50代を迎え、ある時『このままではいけない』と強く感じた経験があります。
それは、過去のうつ病が再発しかねない状況に直面した時のことでした。
1年ほど前の話ですが、仕事の仕方を間違えてしまって、体力的にも精神的にもボロボロになり、うつ病を再発してしまうのではないかという怖さを経験しました。実際に体調を崩し、喉をやられて声が出なくなり、目眩と吐き気で打ち合わせの司会を変わってもらったりということもありました。
この記事では、同じような不安や葛藤を抱える50代HSPベテランSEが、なぜうつ病再発のリスクに直面しやすいのか、その背景を一緒に考えていきます。
単なる精神論ではなく、私自身の経験と、SEという仕事、そしてHSPという気質が複雑に絡み合う現実を紐解くことで、あなたが抱える漠然とした不安を具体的な形にし、今後のキャリアをより健やかに歩むための第一歩を踏み出すきっかけを提供したいと思います。
1.1. HSP気質とSEの仕事環境のギャップ

HSP気質を持つ私たちは、環境の変化やわずかな刺激にも敏感に反応しやすいという特性があります。
この特性が、SEの仕事環境とどのように衝突し、どのような負担を生み出すのかを具体的に見ていきましょう。
HSP気質のSEは、日々の業務において、以下のような状況で環境変化や刺激への敏感さによる負担を感じやすいです。
突発的な問題発生と緊急対応
システムのトラブルや顧客からの緊急の改修依頼は、HSP気質の私たちにとって、予期せぬ大きな刺激となり得ます。
突然の事態は、強いストレスや、「頭が真っ白になる」「頭が回らなくなる」といったパニックに近い感覚を引き起こすことがあります。
私自身も、過去にメンバーができないことへのクレーム対応という突発的な事態に直面し、心身ともに追い詰められ、うつ病の再発を危惧するほどの経験をしました。
この体験談の詳細は、「【うつ病体験談】HSPなシステムエンジニアがうつ病を再発しかけた職場②(メンバーができないことへのクレーム対応)」で詳しく解説しています。
集中を妨げるオフィス環境
オープンオフィスでの電話の音、同僚の会話、頻繁な人の出入り、照明の明るさなど、些細な環境音や視覚的な刺激も、HSP気質を持つ人にとっては集中を阻害し、知らず知らずのうちに疲労を蓄積させる原因となります。
このような環境では、常に感覚が研ぎ澄まされているため、他の人が気にしないようなことでも、心身への負担となってしまうのです。
特に機嫌の悪い人が近くにいると、そのマイナスエネルギーを浴びて、めちゃくちゃ疲弊します。
最近ではオンライン会議で自席で行ったりするので、会議室で勝手にやってくれればいい、そういうやりとりもダイレクトに聞こえてきます。HSP気質に取って苦痛でしかないと思います。
マルチタスクと情報過多
SEの仕事では、複数のプロジェクトを掛け持ちしたり、膨大な量の技術文書や要件定義書を読み込んだりするなど、マルチタスクや複雑な情報の処理が求められる場面が少なくありません。
刺激に敏感なHSP気質の私たちは、情報過多の状態に陥りやすく、処理しきれない情報がストレスとなってしまいます。
私もプロジェクトで責任者にも関わらず、プログラミングにまで入り込んで作業していたことがあり、この時は日々の情報の多さに目が回りそうになり、本当に体調を崩しました。
私は特にマルチタスクが苦手です。一つのことに集中したく、過去、プログラマーだった時はひたすらプログラムを組むことに集中していた時はとても楽しかったのを覚えています。
それが徐々にいろいろな役割を与えられ、それと同時に複数のタスクをこなさないといけなくなり、苦しくなっていくわけです。
責任感の強さによる過剰なプレッシャー
HSP気質の人は、真面目で責任感が強い傾向があります。そのため、任された仕事に対して深く考え込みすぎたり、完璧を求めすぎたりすることで、自身に過剰なプレッシャーをかけてしまうことがあります。
これが積み重なると、心身の不調や、うつ病のリスクを高めることにも繋がりかねません。
これらの負担は、HSP気質のSEが「この仕事は自分には向いていないのかもしれない」と感じてしまう一因にもなり得ます。(私も一時期、向いてないなと思っていました。)
しかし、これらの特性を理解し、適切な対策を講じることで、負担を軽減し、HSP気質を強みとして活かす道もあります。
例えば、在宅勤務は、外部からの刺激を軽減し、集中しやすい環境を自分で作り出す上で非常に有効な手段となり得ます
また、長年技術職としてキャリアを積んできたHSP気質のSEが50代を迎え、技術職以外の業務を任された時の不安に直面することもあります。
特に、管理職やプロジェクトリーダーなど、技術的なスキル以外の業務を任される機会が増えることは、HSP気質を持つ私たちにとって大きな不安要素となる可能性があります。(上記のマルチタスクという意味ではなく)
不慣れな業務への抵抗感
プログラミングやシステム設計といった技術的な専門性をもって貢献してきたHSP気質のSEは、人との調整、契約業務、メンバーのマネジメント、予算管理など、不慣れな非技術的な業務に対して強い抵抗を感じることがあります。
自身の専門外であると感じる領域での責任は、大きなプレッシャーとして心に重くのしかかります。
私も単に技術者として仕事をしている時はよかったのですが、初めてお金や要員の管理をさせられた時は、本当に嫌でした。知らないことが多くて、なにかにつけて失敗するのではないかという怖さがつきまといました。
それが私のやる気を奪ったり、会社に行くのも嫌になることすらありました。
今まで積み重ねてきた仕事ができないことへの抵抗感が出た事例だと思います。
人間関係の変化への敏感さ
管理職になると、チームメンバーだけでなく、他部署のリーダー、顧客、協力会社など、多岐にわたる人々とのコミュニケーションの質や量が大きく変化します。HSP気質の私たちは、人間関係の微妙な機微や変化にも敏感であるため、新たな役割での人間関係の構築や調整に強いストレスを感じやすい傾向があります。周囲の感情を過度に察して疲弊したり、「嫌われたらどうしよう」といった不安を抱えたりすることもあります。
責任範囲の拡大と完璧主義
技術者としてコードや設計の完璧さを追求してきたHSP気質のSEは、管理職としてプロジェクト全体の責任を負うことになった際、その責任の重さに押しつぶされそうになることがあります。完璧主義的な思考が、全ての業務を自分で抱え込もうとする傾向に繋がり、結果として心身の負担を増大させてしまうのです。
1.2. 50代SEに迫る「うつ病再発」のリスク

50代のベテランSE、特にHSP気質を持つ方にとって、過去にうつ病の経験がある場合、「うつ病再発」のリスクは決して無視できない現実です。
キャリアの変革期と重なるこの時期は、心身のバランスが崩れやすい特別な注意が必要です。
HSP気質のSEがうつ病を再発しやすい状況には、以下のようなものが挙げられます。
システムエンジニアがうつ病になる「7つの原因」
一般的なSEがうつ病になる原因については、「【うつ病体験談】システムエンジニアがうつ病になる『7つの原因』」という記事でも解説されています。HSP気質のSEは、これらの原因に対して特に敏感に反応しやすい傾向があります。
過度なストレスと心身の不調
「【うつ病体験談】HSPなシステムエンジニアがうつ病を再発しかけた職場①(切れる上司と酔っぱらいメンバーとの確執)」 や「【うつ病体験談】HSPなシステムエンジニアがうつ病を再発しかけた職場②(メンバーができないことへのクレーム対応)」 といった経験から、ストレスが再発のリスクを高めることを実感されています。
特にHSPはストレス耐性が低い傾向があるため、周囲の状況や人間関係から受ける影響が大きいです。
HSP気質の人が抱えやすい認知の歪みが、うつ病再発のリスクを高めることもあります。
「平気なフリ」や「努力しても認められない」といった認知の歪み
HSP気質の人は、繊細な内面を隠し「平気なフリ」をしてしまう傾向があります 。
これは「HSPなシステムエンジニアがうつになった認知(平気なフリ)」という記事でも取り上げられています。
また、「努力しても認められない」と感じることも、うつ病につながる認知の歪みの一つです。
これらの認知の歪みは、自己肯定感を低下させ、精神的な疲弊を加速させる可能性があります。
1.3. 「仕事がつまらない」と感じる根本的な理由
長年SEとして第一線で活躍してきた50代のベテランが、ある日突然「仕事がつまらない」と感じるようになることがあります。これは単なる倦怠感ではなく、キャリアの大きな節目においてHSP気質のSEが抱えやすい深層的な問題が隠されていることが多いです。
情熱の喪失とキャリアの停滞感
かつてはプログラムの続きを書くのが楽しみだったり、新しい技術を学ぶことに情熱を燃やしていたりしたかもしれません。
しかし、長年のルーティンワークや、新しい挑戦の機会の減少、あるいは自身の成長が感じられなくなることで、仕事への情熱が徐々に失われていくことがあります。
棚谷様もSE歴20年以上と伺っており、長いキャリアの中でのこの感情は多くのベテランSEに共通するものです。
HSP気質ゆえの「向いてない」という感覚
HSP気質のSEは、仕事環境の刺激や人間関係のストレスにより、「自分はこの仕事に向いていないのではないか」と感じることがあります。
情熱の喪失は、このような自己否定感と結びつき、キャリアの停滞感を一層強める可能性があります。
本記事のまとめ:あなたの感じている困難は、決して一人だけの問題ではない

今回の【第1回】では、50代HSPベテランSEのあなたが日々の仕事で直面する、心と体に大きな負担を与える現実と課題について深く掘り下げてきました。
私たちは、HSP気質ゆえに環境の変化や刺激に敏感であり、SEの仕事環境、特に突発的な問題発生やマルチタスク、情報過多が大きなストレスとなり得ることを確認しました。
また、50代で増える技術職以外の業務が、不慣れさや人間関係の機微への敏感さから、新たな不安要素となることも理解いただけたかと思います。
さらに、過去にうつ病を経験したHSP気質のSEにとって、「平気なフリ」や「努力しても認められない」といった、物事の捉え方のクセ、「認知の歪み」は、うつ病再発のリスクを高める要因となり得ます。
そして、かつて情熱を燃やした仕事が「つまらない」と感じてしまう根本的な理由が、情熱の喪失やキャリアの停滞感にあることも見てきました。
これらの困難は、決してあなた一人が抱えている特別な問題ではありません。
HSP気質という特性と、50代SEというキャリアステージが複合的に作用し、多くのHSP気質のベテランSEが同様の悩みを抱えています。
しかし、これらの課題を正確に理解し、向き合うことこそが、心と体を守り、充実したSE人生を再構築するための第一歩です。
次回の【第2回】では、今回の記事で明確になった課題に対し、うつ病の再発を防ぎ、心身の健康を維持していくための具体的な方法を詳しくご紹介します。
過度な刺激への対策から、夜勤時の心身への負担軽減策、日常生活で実践できるストレスマネジメントまで、明日から実践できる具体的なヒントが満載です。どうぞご期待ください。