システムエンジニアとして現場を回す中で、周囲のメンバーや上長、あるいは他チームのベテラン社員に対して、激しいイライラや怒りを感じてしまうことはないでしょうか。
過去の私は、まさにこの「他人にキレやすいめんどくさいエンジニア」の典型でした。なぜ自分はこんなにも他人に攻撃的になってしまうのか。その原因を心理学や認知の仕組みを通して深く掘り下げていった結果、怒りのトリガーが「相手のスキル」ではなく、自分自身の「自己肯定感の低さ」という致命的なバグにあることを特定しました。
今回は、特にベテランや同世代のエンジニアに対してイライラを爆発させてしまうメカニズムと、その脳内システムを正常化するための具体的なリファクタリング(対策)について解説します。
1. 怒りのターゲットの特定:「同世代以上・先輩」だけに湧く謎のイライラ
自分の感情のログを解析していくと、怒りが向かう対象には明確な偏りがあることが分かりました。
年下の後輩やメンバーが成果を出せない時にも当然不満はありましたが、それは「期限を守らない」「報告がない」といった、業務上の明快なエラーに対する正当な理由によるものでした。そのため、激昂するようなことにはなりません。
しかし、「同世代や先輩社員(ベテラン)」が相手になると、明確な業務上の実害がないにもかかわらず、事あるごとに激しい怒りが湧き上がっていたのです。
具体的には、以下のような場面で激しいイライラを爆発させていました。
- 自分が最も得意とするC言語について、基本構造すら理解していない先輩に対して「なぜベテランなのに知らないんだ?」と露骨に軽蔑する態度をとる。
- データベースの設計において、インデックスの仕組み(INDEX)を知らなかったり、効率的なSQLを書けなかったりする先輩に対して、「ふざけるな」と心の中で激怒し、暴言に近い態度で接する。
いま冷静に振り返れば、この怒りは完全に「論理的なエラー(バグ)」を起こしています。
2. なぜ先輩にキレてしまうのか?原因は「自己肯定感の低さ」というバグ
システムエンジニアの業務領域はあまりにも広大であり、まったく同じキャリアやスキルセットを持つ人間など存在しません。どれほど経験を積んだベテランであっても、経験したプロジェクトが違えば「知らない技術」があるのは当然の仕様(仕様通り)です。
実際、現在の私もJavaやPythonといったオブジェクト指向言語での開発を胸を張ってこなせるわけではなく、その領域は配下のメンバーに一任しています。それなのに、当時の私はなぜ先輩たちの「知らない姿」を許せなかったのでしょうか。
その根本原因は、「自分は周りより劣っている」という無意識の自己肯定感の低さにありました。
私は学歴へのコンプレックスが強く、IT業界にいる優秀な同世代に比べて「自分は仕事ができない」「もっと必死に牙城を築かなければ、いつかクビになってしまう」という強い恐怖と危機感を抱えていました。
この低い自己肯定感が、脳内で以下のような誤ったプログラミング(認知の歪み)を実行していたのです。
【脳内のバグコード】
IF (「自分(能力が低いと思い込んでいる存在)」がこの技術をマスターしている) {
THEN (「自分より上の世代や先輩」は、当然100%この技術を完璧に知っているべきである)
ELSE (もし知らないのであれば、それは怠慢であり、許しがたいエラーである)
}
「自分が必死に覚えたスキルなのだから、上の人間ができないはずがない」という身勝手な前提を相手に押し付け、その期待から外れた先輩を見ては勝手にキレていたのです。
本当は自分の得意分野として誇るべきスキルなのに、自己肯定感が低いために自分の価値を認められず、「他人ができないこと」を攻撃するエネルギーに変換してしまっていました。
3. この認知エラーを放置する「3つの致命的なデメリット」
この脳内のバグを放置して周囲に怒りを撒き散らしていると、現場での生存確率は著しく低下します。
- 致命的なコミュニケーショントラブル: 勝手な理想を押し付けてキレてくる部下や同僚は、チームにとって重大なリスク因子(脆弱性)とみなされます。
- 孤立化(めんどくさい奴というレッテル): 周囲から距離を置かれ、重要な情報共有や相談が回ってこない「孤立したノード」になってしまいます。
- 無駄な脳内リソースの消費(慢性的なストレス): 他人の一挙手一投足にアラートを鳴らし続けるため、脳のCPUが常に100%近くまで酷使され、精神的な熱暴走(うつ病などのメンタルダウン)を誘発します。私自身、この自己肯定感の低さと認知のエラーが原因で、一度完全にシステムダウンを経験しました。
4. イライラを停止させるための「対策法(リファクタリング)」
もし、今の現場で同じように周囲のスキル不足にイライラしているなら、まずは以下の手順で脳内の認知システムをリファクタリングしてください。
① 自分の「できていること」を客観的なログとして認める
他人に完璧を求めるのをやめる第一歩は、まず「自分はこれを結構よくやれている」と、自分のスキルを正確にインベントリ(棚卸し)して認めてあげることです。自分の価値を他者との比較ではなく、自己の内部でコンパイルできるようになれば、他人ができない姿を見ても「ああ、あの人は別の領域が専門なのだな」と受け流せるようになります。
② 「全部できなくて普通」という標準仕様を受け入れる
ベテランだからといって、若手よりすべての面において優れている必要はありません。SEの仕事は幅が広いため、凸凹があって当然です。「先輩なのにSQLが書けない」ではなく、「SQLは自分がサポートし、自分に足りない大局的なマネジメントや調整力は先輩に任せよう」という、相互補完(分散処理)の思考へ切り替えましょう。
まとめ:怒りが湧いたら「自分への問いかけ」の合図
他人に激しい怒りやイライラを感じたときは、相手を責める前に一度、自分の脳内に「それってホント?」とブレークポイントを設定して問いかけてみてください。
「なぜ私は、あの人がこれを知らないことにここまで怒っているのだろう?」「もしかして、自分自身の焦りや劣等感を、相手に投影してしまっていないか?」
自分の認知のクセ(バグ)に気づくだけで、現場で発生するイライラの大部分は未然にパッチを当てて消し去ることができます。全部できなくて普通、みんな違って普通。この標準仕様を心にインストールして、より省エネでクリーンなメンタルで現場を回していきましょう。

