はじめに:多様なSE現場を渡り歩くHSPベテランが抱える「この仕事、向いてる?」の問い

50代を迎え、システムエンジニアとしてのキャリアを振り返ったとき、「このままでいいのだろうか?」という漠然とした不安を感じることはありませんか?
特にHSP気質を持つ私たちにとって、目の前の仕事や職場の環境が「自分には向いていないのではないか」と感じてしまう瞬間は少なくありません。
私自身、HSP気質のシステムエンジニアとして20年以上のキャリアを積む中で、通信系、放送業界、金融系、証券系、旅行業、交通関連、航空関連、保険関連、エネルギー業界など、実に多岐にわたる業界のシステム開発に携わってきました。
それぞれの業界には独特の文化、プレッシャー、人間関係があり、HSP気質を持つ私にとって、それは時に大きな挑戦でした。
このブログでは、私がこれまでのキャリアで経験してきた多様な職場環境におけるHSPとしての具体的な葛藤を、実体験を交えながらお伝えします。
HSP気質とSEの仕事環境の一般的なギャップについては、「【HSP SEのキャリア術 第1回】50代HSPベテランSEが直面する『仕事のギャップ』と再発リスク」で詳しく解説していますので、そちらも併せてご覧ください。
今だから言えることですが、私が自身のHSP気質に気づいたのは、かつてうつ病を経験し、その後社外で心理学を学び始めてからのことでした。
そのため、キャリアの初期段階で携わった放送、通信、金融系といった業界での経験は、HSP気質であること自体に全く無自覚な時期の、試行錯誤と苦悩に満ちていました。
当時の「きつさ」を、今振り返ると「HSP気質ゆえの反応だったのかもしれない」と感じることが多々あります。
その後の旅行業、交通関連、航空関連、そして少しだけ経験した保険業の業界では、HSP気質を意識しながら仕事に向き合うようになり、対処法も大きく変化していきました。この視点から、私のSE現場サバイバル記をお伝えします。
I. 業界ごとの「HSPにとっての壁」:私のSE現場サバイバル記

HSP気質を持つ私たちは、環境の変化やわずかな刺激にも敏感に反応しやすい特性があります。
これはSEの仕事環境と衝突し、特に業界が変われば、その「壁」の質も変化します。私が経験した多岐にわたる業界は、それぞれ異なる「HSPにとっての壁」がありました。
1.1 通信系・放送業界での「スピードとプレッシャー」を乗りこなす

私が通信系回線設計システムの改修機能開発や放送業界の字幕表示システム改修 に携わった際、プロジェクトの遅延回復やタイトなスケジュールに直面しました。
例えば、放送業界のプロジェクトでは、大幅に遅延した状態から1ヵ月遅れをオンスケジュールまで回復させ、リリースを見届けた経験があります。
当時は自身のHSP気質に気づいていなかったため、このスピード感とプレッシャーの中で、小さなミスも許されないという極度の緊張感に常に苛まれていました。
今思えば、HSPゆえの過剰な反応だったのかもしれません。
HSPが直面した壁(当時の感覚): 迅速な判断と高い正確性が常に求められる環境下では、HSPの情報処理の負荷が特に高まり、些細な見落としが全体に影響する可能性を考えすぎ、過度な緊張状態に陥りやすい。
この時期は、その原因が自分の気質にあるとは全く思っていませんでした。なぜ自分だけこんなに疲弊するのだろう、自分の能力が低いのだろうかと自己否定に陥ることもありました。
私なりのサバイバル戦略(HSP認識前の試行錯誤): 精神的に追い詰められないよう、とにかく「完璧にこなす」ことだけを考えていました。
タスクの優先順位をつけ、可能な限り一つのタスクに集中する時間を作ることで、マルチタスクによる情報過多を避けようと必死でした。今ならもっと効果的な対策が取れたはずだと感じています。
1.2 金融系・証券系での「正確性と責任の重さ」に向き合う(HSP気質に無自覚だった時期の苦悩)

金融系のシステムリニューアル、証券系のデータ管理 やコールセンターシステム など、これらの業界では「間違いが許されない」という極度の正確性が求められます。
HSPが直面した壁(当時の感覚)
膨大なデータと厳格な規則の中で、HSPの責任感の強さが過剰なプレッシャーとなりやすいです。
金融系や証券系のプロジェクトに参画していたHSPに無自覚な時期は、設計書や資料が不十分な状況で顧客からのヒアリングのみで開発を進めるといった場面では、「ミスしてはいけない」という意識が強くなり、心身ともに疲弊していました。この頃は、なぜ自分だけこんなに疲れるのか、自分の能力が低いのかと悩んでいました。
私なりのサバイバル戦略(HSP認識前の試行錯誤)
責任の重さからくるプレッシャーを軽減するため、とにかく自分で全てを把握し、完璧に仕上げようと努力していました。しかし、それがかえって負担を増やしていたように思います。
1.3 旅行業・交通関連・航空関連、そして保険関連での「複雑性、人間関係の多様性、責任の重さ」を乗りこなす(HSP気質を意識してからの実践)

旅行系の予約システムリニューアル、交通関連のシステムリプレース、航空関連の基盤運用保守 など、これらの業界は多くの関係者との連携が不可欠です。
また、少しだけ経験した保険関連のシステム基盤保守 でも、金融系同様の正確性と責任の重さが求められました。
HSPが直面した壁(HSP認識後の葛藤)
人間関係の機微に敏感なHSPにとって、多岐にわたる人々とのコミュニケーションの質や量の変化は強いストレスとなります。
特に、この業界に参画していた時期はHSP気質を意識し始めていた頃で、他社との協業では文化の違いや意見の衝突も生じやすく、「周囲の感情を過度に察して疲弊する」「嫌われたらどうしよう」といった不安 を感じやすいことを自覚していました。
保険関連では、インフラ未経験の領域ながらDB2のスキルで顧客やエンドユーザーの信頼を得ましたが、その裏にはHSP特有の責任感からくるプレッシャーも少なからずありました。
私なりのサバイバル戦略(HSP認識後の実践)
HSP気質を認識してからは、コミュニケーションの際に相手の意図を深く読み取ろうとするHSPの特性を「強み」と捉え、言葉の裏にあるニーズや懸念を察知することに努めました。
公式な場だけでなく、個別に「雑談」の場を設けることで、信頼関係を深めることを意識しました。航空関連の予約システムリニューアルプロジェクトの総合テスト時に、全チームとのコミュニケーションを取りながら円滑にテストを推進し、大規模リリースを成功させた経験 は、HSPとしての共感力と繊細な気配りが活かされた好例だと感じています。
また、保険関連の仕事では、完璧主義に陥りすぎず、不明点や不安要素は早めに周囲に共有し、一人で抱え込まないよう努めることで、責任の重さからくるプレッシャーを軽減しました。
1.4 エネルギー業界での「長期的な視点と新しい役割の挑戦」(HSP気質を意識して適応)

エネルギー関連の顧客ポータルシステムのバックエンド開発・運用に従事しています。
ここでは、長期的な視点と安定稼働が求められるだけでなく、プロジェクトリーダーとして、技術職以外のお金や要員の管理といった不慣れな非技術的業務を任される機会も増えました。
最大24名規模のプロジェクトを統括し、当初予定より多くの案件を受注、目標達成を見込むまでになった経験は、HSP気質を理解した上での大きな成長の機会でした。
HSPが直面した壁
技術的な専門性で貢献してきたHSPにとって、不慣れな業務への抵抗感は大きく、「知らないことが多くて失敗するのではないかという怖さ」がやる気を奪うこともありました。
HSPの繊細さが「これで本当に合っているのか」という自己疑念を増幅させ、大きなストレスとなり得ることをHSP気質を認識してからはより明確に自覚していました。
私なりのサバイバル戦略
新しい役割に直面した際は、完璧を求めすぎず、まずは「挑戦してみる」という姿勢を意識しました。
HSP気質であるからこそ、「分からないことは素直に認め、周囲の専門家に積極的に質問し、協力を仰ぐ」というスタンスが重要だと学びました。
また、HSPとしての共感力を活かし、メンバーの意見を丁寧に聞き、チーム全体の合意形成を重視することで、不慣れな業務もチームとして乗り越えることを意識しました。これはHSPの弱点を補い、強みを活かす戦略となりました。
まとめ:【HSPベテランSEの業界サバイバル術】第1部

この記事では、HSP気質の私がシステムエンジニアとして多岐にわたる業界を渡り歩く中で、それぞれに直面した「壁」と、それにどう向き合ってきたかをお伝えしました。
HSP気質に無自覚だったキャリア初期には、通信系や金融系といった環境特有のスピードやプレッシャー、責任の重さに対して、自己否定に陥るほどの苦しみを味わいました。
しかし、HSP気質を認識してからは、旅行業や航空関連、そして現在のエネルギー業界での経験を通して、自身の特性を理解し、コミュニケーションや新しい役割への向き合い方を調整することで、よりしなやかに困難を乗り越えられるようになりました。
業界ごとに異なる課題があるものの、HSP気質を持つ私たちが感じる「きつさ」の根源は共通していることが、私自身の経験からも明らかになったかと思います。
次回の記事では、これらの業界横断的な経験を通じて私が培ってきた、HSPベテランSEのための「心理的サバイバル戦略」について、具体的な心理的対策を紹介しますので、必要な方の参考になれば幸いです。

