ベテランエンジニアの生存戦略:肉体という「ハードウェア」の減価償却と保守コスト

※この記事は個人の体験と知見に基づいています。
医療的な助言ではないこと、また成果を保証するものではありません。            
免責事項の全文はこちらをご参照ください。

目次

1.オンプレミスな「肉体」という名のサーバー

エンジニアとして30年近いキャリアを歩んできて、私たちは常に最新の技術、新しい言語、クラウドネイティブな開発手法など、いわゆる「OS(知識・スキル)」のアップデートを繰り返してきた。

しかし、最近になって痛感することがある。それら最新のソフトウェアを動かしているのは、自分自身という「肉体」という名の、極めてアナログでオンプレミスなサーバーなのだということだ。

20代の頃は、このサーバーのスペックに無頓着でも問題なかった。

多少の無理(オーバークロック)をしても、一晩シャットダウン(睡眠)すれば、翌朝にはメモリもクリーンになり、CPUも快調に回っていた。リソース不足を感じることなど、ほとんどなかったのだ。

だが、ベテランと呼ばれる域に達した今、現実は違う。

先日、私はジムで45分の激しいプログラムを3本こなした。その結果、今朝の私のハードウェアは、あちこちで「警告アラート」を鳴らしている。

足腰の重み、立ち上がるたびに走る痛み。これらは、若い頃の環境では出力されなかった「エラーログ」だ。

私たちがどんなにクラウドやAIという最新鋭の武器を手に入れたとしても、それを動かす基盤がこの「オンプレミスな肉体」である事実に変わりはない。

ハードウェアは確実に「減価償却」が進んでおり、かつてのパフォーマンスを維持するためには、当時と同じ運用では通用しないフェーズに来ているのだ。

30年近いキャリアを持つ私が、なぜアスリートのような高負荷トレーニングを自分に課しているのか。それは、自分という『オンプレミスなサーバー』を長く、安定して稼働させるための負荷試験(ストレステスト)に近い。

もちろん、誰もが私と同じようにジムに通い詰める必要はない。

しかし、ベテランになればなるほど、肉体というハードウェアの『減価償却』は進む。放置すれば、知識(ソフトウェア)は最新でも、それを動かす基盤が脆弱になり、ある日突然『システムダウン(健康被害やメンタル不調)』を招く。

私が筋肉痛を抱えながらも動き続けるのは、それが自分のハードウェア特性を維持するための『必要な保守コスト』だと確信しているからだ。

一般的な50代の運動量とはかけ離れているかもしれないが、『自分の体という資産をどう管理するか』という視点は、すべてのベテランエンジニアに共通する生存戦略であるはずだ。

2.「保守」をケチることの技術的負債

システム開発において、納期や予算を優先して「保守(メンテナンス)」を後回しにするとどうなるか。その場は凌げても、いずれ「技術的負債」として利子がつき、取り返しのつかない障害となって返ってくる。これはエンジニアなら誰もが知る定石だ。

肉体というハードウェアにおいても、全く同じことが言える。

私の昨日のスケジュール――ダンス、トランポリン、格闘技という高強度の3本立て、そして翌日も間髪入れずにジムへ向かう姿は、はたから見れば「やりすぎ」に見えるだろう。しかし、私にとってこれは「贅沢な趣味」ではなく、「エンジニアとしての稼働率を最大化するための、戦略的な保守費用の投入」なのだ。

ベテランになればなるほど、仕事の責任は重くなり、脳にかかる負荷(CPU使用率)は常に高い状態が続く。ここで「運動する時間がない」「疲れるから休む」と保守をケチってしまうと、肉体という基盤は音を立てて劣化していく。

  • 睡眠の質の低下(メモリの断片化)
  • ストレスによる判断力の鈍化(プロセスのフリーズ)
  • 慢性的な疲労感(電源ユニットの出力低下)

これらを放置して「根性」という名のパッチを当て続けることこそが、最大の技術的負債だ。

私が人並み外れた運動量をこなすのは、自分のハードウェアを「単に維持する」だけでなく、「高い負荷にも耐えられるように最適化(チューニング)」しておきたいからだ。

もちろん、読者の皆さんに私と同じ強度を勧めるわけではない。大切なのは、自分の資産(肉体)の状態を正しくモニタリングし、将来のシステムダウンを防ぐための「適切な保守コスト」を、毎日のスケジュールに正しく計上することである。

今、あなたが保守を後回しにして得ている「時間」は、将来の大きな「負債」に繋がっていないだろうか。

3.HSPという「高精度センサー」と冷却システム

ベテランエンジニアとして長く現場に留まるためには、最新の技術スタックを追うこと以上に大切なことがある。それは、自分という「ハードウェア」の特性を理解し、適切な冷却システム(クーリングメカニズム)を実装することだ。

特に私のように、HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)の気質を持つ人間にとって、現代の現場は常に「高負荷なプロセス」が走り続けているような状態だ。

1.現場に溢れる「ノイズ」をどう処理するか

現場では、コードのバグだけでなく、人の感情や場の空気といった「目に見えないノイズ」が大量に発生する。

  • 顧客が抱く言語化されない不安
  • メンバー同士の不協和音
  • 配慮に欠ける報告がもたらすピリついた空気

これらを敏感に受信してしまうHSPにとって、一日中打ち合わせが続く日は、脳のCPUが常に100%に近い状態で稼働している。放っておけば、脳はあっという間にオーバーヒートを起こし、思考停止に陥ってしまう。

2.「強制リブート」としての運動

この熱を逃がすために、私が取り入れているのが「物理的な負荷によるリセット」だ。 先日は、仕事で溜まったイライラと疲労を抱えたままジムへ向かい、3つのスタジオプログラムをハシゴして思い切り体を動かしてきた。

一見すると、疲れている時にさらに体を追い込むのは逆効果に見えるかもしれない。

しかし、これこそが私にとっての「システムの強制再起動」なのだ。

激しいリズムと運動に没頭する間だけは、脳内の「仕事のプロセス」を完全にキル(Kill)することができる。汗をかき、くたくたになって帰宅する頃には、脳の熱は下がり、クリーンな状態で翌日のタスクに向き合えるようになる。

3.「自分だけの冷却液」を持つ重要性

エンジニアがサーバーの冷却に気を配るように、自分自身の冷却手段も一つに絞らず、いくつか持っておくのが望ましい。

  • 物理的冷却: ジムやウォーキングなどの運動
  • 精神的冷却: 好きな紅茶を飲む、静かな朝の時間を持つ
  • 認知的冷却: 思考を紙やブログに書き出し、脳の外に排泄(パージ)する

「まだ頑張れる」と無理をして稼働し続けるのは、冷却ファンが壊れたままサーバーを回し続けるのと同じだ。ベテランと呼ばれる世代こそ、自分の限界を察知し、意図的に「冷やす時間」を確保するスキルが、生存率を大きく左右するのである。

4.まとめ ― メンテナンスを制する者が、長く現場を楽しめる

ここまで、ベテランエンジニアが現場で生き残るための「思考の整理術」や「冷却システム」について触れてきた。

最後にもう一度、原点に立ち返ってみたい。私たちが30年近くこの業界で戦い続けてこれたのは、単に「コードが書けるから」だろうか?

1.「止まらないこと」の価値

システムの世界では、最新鋭のスペックを持つサーバーよりも、「一度も止まらずに稼働し続けているサーバー」の方が圧倒的に信頼されることがある。エンジニアのキャリアも同じだ。

どんなに高いスキルを持っていても、燃え尽きて現場を去ってしまえば、その知恵が伝承されることはない。 自分が「HSPという特性」を持ち、「報告のストーリー」にこだわり、「ジムで脳を冷却する」という手間のかかるメンテナンスを自分に課しているのは、すべて「現場という本番環境で、安定稼働を続けるため」に他ならない。

2.変化の激しい時代だからこそ、不変のスキルを

AIの台頭により、コーディングや設計の在り方は劇的に変わろうとしている。しかし、AIがどれだけ進歩しても、現場から消えないものがある。

それは、顧客の不安に寄り添い、複雑な人間関係を解きほぐし、プロジェクトに「安心感」という名の秩序をもたらす力だ。 こうした「人間臭い調整力」や「現場の空気感を読む力」こそ、私たちベテランが長年のエラーと格闘し、泥臭い経験から抽出してきた「一生モノのライブラリ」である。

3.楽しみ続けるための「余白」

ベテランが現場で出すべきバリューは、必死にキーボードを叩くことだけではない。

自分自身のコンディションを整え、周囲に安心感を与え、「このプロジェクトは大丈夫だ」と背中で語ること。そのためには、自分自身が仕事を楽しめる「余白」を常に持っていなければならない。

メンテナンスは、サボるための準備ではない。明日もまた、全力で「現場」を楽しむための、プロフェッショナルとしての儀式なのだ。

30年選手としての私の挑戦は、これからも続く。 自分というシステムを丁寧に手入れしながら、また新しい「現場」という名のコードを読み解いていきたいと思う。

この記事を書いた人
たなやん
  • システムエンジニア歴20年以上
  • 2年でうつ病を完全寛解
  • 現在はうつ病以前よりメンタルを楽に仕事に従事中
  • HSP気質を持つもそれも力に!
  • 心理学系講座講師

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