システムエンジニアとして通算約30年のキャリアを歩む中で、私はさまざまなプロジェクトの現場を経験してきました。その長いエンジニア人生の途中(2013年頃)、私はある理不尽な現場に配属され、心身の限界(ハードウェアのハザード)を迎えたことがあります。
当時はまだ、自分が「周囲の環境や他人の感情を敏感に察知しやすい気質(HSP)」であると明確に自覚していなかったため、理不尽なストレスをすべて「自分の能力不足のせいだ」と脳内で処理してしまい、深刻なオーバーフローを引き起こしてしまいました。
今回は、私の苦いパワハラ現場での体験談をベースに、同じような「過酷な環境」で今まさに耐え忍んでいるベテラン・中堅エンジニアの方へ向けて、心を壊さずに現場を生き抜くための現実的な防衛策と、思考のデバッグ方法をお届けします。
1. 順調だったキャリアが一転した「転職直後の罠」
新卒で入社した最初の会社では、100時間を超えるような激しい残業がある現場も経験しましたが、当時はチームの責任者という立場ではなかったこともあり、精神的な疲労はそれほど溜め込まずに乗り切れていました。
しかし、4年ほど勤めたのちにステップアップを目指して転職した先の、最初のプロジェクトで状況が一変します。
新しい現場は、これまで得意としていたプログラミングメインの業務ではなく、設計や運用保守のウエイトが高い職場でした。「中途採用だからこのくらいできて当然」という無言のプレッシャーを肌で敏感に感じ取ってしまい、環境の変化も重なって、私は着任早々から強い焦りを感じていました。
今振り返れば、この「新しい環境への過剰な適応焦燥」と「自分を過小評価してしまう思考のバグ」が、その後に起きる悲劇のトリガーになってしまったのです。
2. 放置すればハザードを起こす「理不尽な現場」の実態
その現場で私を待ち受けていたのは、今なら完全にアウトと判定されるレベルの、強烈なトップダウン気質のリーダーでした。私の前にそのポジションにいたメンバーも心身のバランスを崩して離脱していたことを、後から知ることになります。
具体的には、以下のような理不尽な運用が日常茶飯事で行われていました。
- 情報の隠蔽と丸投げ: 初めての業務で資料や設計書の格納場所を尋ねても「自分で調べろ」の一点張り。格納サーバーすら教えてもらえず、探すのに手間取っていると「何をやっているんだ」と叱咤される。
- 人格否定に近いフィードバック: 作業の手順や設計書の書き方に対して、建設的なアドバイスではなく、毎日のように長時間の厳しい叱責が続く。
- 理不尽な書類の書き直し: 残業申請の理由がリーダーの「気に食わない」という理由だけで、1日に15回も書き直しを命じられる。
このような環境に数ヶ月間身を置き続けた結果、私のハードウェア(身体)は完全に悲鳴を上げ始めました。
毎朝、胃に差し込むような痛みを感じながら出勤し、昼休みは職場に一瞬でも居たくなくて、近くの公園で缶コーヒーを片手に鳩を眺めながら「自由でいいな……」と現実逃避する日々。食事も喉を通らなくなり、体重は一気に5kgも減少しました。
最終的には、あまりの痛みに耐えかねて病院へ駆け込んだところ、「十二指腸の形がストレスで変形し、潰瘍の手前まで悪化している」と診断され、ドクターストップがかかる形でようやくそのプロジェクトを離脱することになったのです。
3. なぜ、限界を迎えるまで「逃げる」ことができなかったのか?
これほど過酷な状況でありながら、なぜ当時の私はすぐにアラートを上げて逃げ出すことができなかったのでしょうか。そこには、真面目なエンジニアほど陥りやすい「3つの認知の罠(思い込み)」がありました。
- 「できないのは、自分のスキルや知識が足りないせいだ」という自己卑下
- 「転職したばかりですぐに辞めたら、次のキャリアで致命的なマイナスになる」という恐怖
- 「どんなに理不尽でも、弱音を吐かずに耐え抜くのがプロだ」という過剰な責任感
特にHSP気質を持つSEは、職場のピリついた空気や怒号を浴びるだけで、本人が思っている以上の致命的なダメージを脳のワーキングメモリに蓄積し続けます。それに加えて「自分が悪い」と思い込んでしまうと、心身の安全弁(セーフティ機能)が完全にシャットダウンしてしまうのです。
4. 過去の自分に教えたい、現場で心身を守る「思考のリファクタリング」
もし、今の私が当時の私にコードレビュー(アドバイス)をするなら、以下の「3つの生存戦略」を確実に伝えます。
① 「知らない・できない」があるのは当然と割り切る
新しい現場や異なるドメイン(業務領域)に入った直後に、すべてを完璧にこなせる人間など存在しません。必要なドキュメントの場所すら教えないような環境は、組織側の「オンボーディング設計のバグ」です。あなたの能力のせいではありません。
② 理不尽な環境からは「即時撤退」してもキャリアは崩れない
転職直後であっても、マネジメント層やリーダーのハラスメントによって心身を壊すリスクがあるならば、その場を離れることは「正当防衛」です。心身の健康という最重要アセット(資産)を失うことに比べれば、職歴のわずかなギャップなど後からいくらでもリカバリーできます。
③ 抱え込まずに、客観的な事実(ログ)を持ってアラートを上げる
「残業理由で15回書き直させられた」「仕様の質問に対して一切の回答を拒否された」といった事実を淡々とメモ(ログ)に残し、さらに上のマネジメント層や人事、あるいは信頼できる部署へエスカレーションしてください。主観ではなく「客観的事実」として伝えることで、組織は動かざるを得なくなります。
まとめ:あなたのハードウェア(心身)より重要なプロジェクトはない
真面目で、細かいリスクにいち早く気づける繊細なSEほど、理不尽な現場の要求に「自分が頑張ればシステムが回るから」と応えようとしてしまいます。
しかし、あなたという貴重なエンジニアの心身を犠牲にしてまで完遂させるべきプロジェクトなど、この世に一つもありません。
胃の痛みや深刻な不眠など、身体からの警告サイン(エラーログ)が出ているときは、絶対にそれを無視しないでください。まずは一旦立ち止まり、自分の状況を客観的に見つめ直して、必要であれば周囲にSOSを出すか、環境をガラッと変える選択肢を自分に許してあげましょう。
じっくりと自身の特性(気質)を理解し、適切な運用保守(セルフケア)を心がければ、エンジニアとして長く、健やかに活躍し続けることは十分に可能です。あなたの代わりはどこにもいないのですから。

